会長挨拶 第55期

第56期会長就任にあたって

東京大学大学院工学系研究科 教授 中須賀真一

このたび第56期の会長を拝命しました東京大学の中須賀です。就任にあたりまして一言ご挨拶を申し上げるとともに、学会の目指す方向性について考えていることを述べさせていただきます。

まず学会は何のためにあるのでしょうか。学会はアカデミアや産業界の多くの方々のボランティアの活動により成り立っており、たくさん時間を取られる方々も多い中で、学会活動がそれに見合う以上のメリットを生んでいるかどうかを考えないといけないと思います。技術情報やアイデアの交換や議論、共同研究計画等を検討する場が学会の発祥だと思いますが、そのような場を十分に提供できているのか、学会に入っているからこそできているものは本当にあるのか、を再考する必要があるでしょう。部門委員会もたくさんあり、それぞれの技術分野の議論の拠点の候補だと思います。シンポジウム運営のための実務をするとかだけでなく、「アカデミアや企業が集まって議論することでシナジー的に何かが起こる場」になるにはどうしたらいいか、考えていくことが大事だと思います。また、学会誌や論文誌もそのような議論の場としての価値を今一度考えたいと思います。

講演会やシンポジウムも同様の「実施する意義」が必要です。インターネットの発達と研究者がWEBに自分の研究を掲載することで、どこにどんな研究をしている人がいるかが日常的にわかる時代です。必要であれば、メールベースやオンライン会議で議論を吹っ掛けることもできるでしょう。その中で、講演会を多くの人の手をかけて開催するのはなぜか、どんな効果を期待してのことかを再考しましょう。若手や学生の発表の鍛錬の場であることは依然として重要だと思います。しかし、多くの人にとって発表+質疑応答の場であるだけではもったいない。対面で集まることで次に向けての研究を立ち上げ、計画を相談する、企業においては、製品を展示してそれを手に説明しながら商談につなげる、などが大事な目的であり、また、産業界・アカデミアが集まることを利用して、政府関係者と日本の将来戦略の議論をする場を作ることもありうるでしょう。世界の主要なシンポジウムはそのような方向に明らかにシフトしています。コロナ渦があけて、対面になった多くの講演会では参加者が爆発的に増えてうれしい悲鳴をあげていますが、さらに「そこで何かが起こる、何かを起こす」講演会にしていくべく検討しましょう。

先日、航空関係者と議論をする機会があり、分かったことは、航空分野になかなか人が集まらず、整備員なども含めて人材がとても不足しているということでした。宇宙においても、政府予算が急激に拡大し、スタートアップもたくさんの政府受注ができるようになった中で起こっているのは、極度の人材不足の問題です。AIをはじめとする情報通信技術、データサイエンティスト、電気・機械工学などのスペシャリストは、他の産業分野との取り合いが起こっており、航空宇宙の魅力や働き甲斐を今一度強調しないと入ってきてもらえない時代になりつつあります。異業種からの人材の流入と、大学などでの人材育成と航空宇宙分野への就職のモチベーション向上を如何に図るか、そしてそのベースとなる航空宇宙分野の魅力を若年層も含めた社会にどう発信するか、これらは、これから急速に起こる若手人口の減少とも相まって、今後の日本の航空宇宙産業の大きな課題であり、この問題にも取り組む場となる学会でありたいと思います。

最後は、アカデミアや産業界と政府との関係における学会の役割です。ご存じのように宇宙ではまずは3000億円の「宇宙戦略基金」がつき、産業界やアカデミアにも多くの研究開発資金が流れる可能性が生まれました。科研費のように、研究者それぞれが独自のアイデアでテーマを決めて研究をするボトムアップだけではなく、政府が航空宇宙分野の今後の方向性・国家戦略をしっかり検討し、その方向に向けて研究資金を集中的につけていく時代になったと思います。私は宇宙政策委員会はじめ多くの政府委員会の委員長を長年経験してきましたが、わかったことは、世界の技術や戦略に関する調査分析とそれをもとにした戦略立案機能が根本的に必要であるが、日本はそこがとても弱いこと、政府でやろうとしてもシンクタンクが育っていない状況では難しく、当学会のような技術コミュニティが知恵袋になるしかないということです。先に述べた講演会等における産官学を巻き込んだ討論だけでなく、学会の英知をもって政府の調査分析・戦略立案に随時、貢献すること、また、さらに進めて、産業界からの意思や要望を集約して政府に伝える集約点となること、そんな学会の姿も必要ではないでしょうか。

いろいろ方向性を示させていただきましたが、さらなるプランの精緻化と実践においては会員の皆さんのご参画が必須です。どうか航空宇宙分野の発展のため、ご協力いただければ幸いです。どうぞよろしくお願いします。