会長挨拶 第55期

森田 泰弘

~JSASSを挑戦の基盤に~

第 55 期の会長就任にあたり,会員の皆さまにご挨拶を申し上げます。

私は、学生会員となって以来、ISTSや宇科連など講演会の運営を中心に活動してきました。現場での人と人との関わり合いを通して、研究者として大事なことをたくさん学んできたような気がします。如何にしてみんなで気持ちよく仕事をするか。そういう意味で最初に申し上げたいのは、学会活動はボランティアで成り立っているので、みんなで楽しく、わいわいガヤガヤ自由闊達にやりたいということです。講演会等の実行委員会の皆さんをはじめ日々奮闘されている方々に敬意を表するとともに、会員の皆さまと運営側の皆さまが気持ちよく活動できるように、私も最大限に頑張ります。

4月の定時社員総会と年会講演会は日本科学未来館にて3年ぶりに対面で行われました。みんなで集まる。この何でもないようなことがかけがえのないことだと改めて気づかされます。懇親会での学生表彰の際に、鈴木前会長が(学生の代理の)李家元会長に賞状を手渡す。この光景の何とも言えないほのぼの感はリモートでは決して味わえないだろうと思います。

今、どの学術分野でも学会の意義・価値を変えていく時代となりました。JSASSにおいても中身の充実を図り、新しい時代にふさわしい学会にしたいと考えています。その心は、JSASSを会員の皆さまが大きなことに挑戦する基盤にしたいということです。

そのためにJSASSが大事にしているのは仲間を増やすという観点です。これまでの仲間との絆を一層深め、新しい仲間をどんどん作って大きなことに挑戦していく。航空宇宙のすそ野を広げ、航空宇宙業界はもちろん日本の産業界全体を盛りあげたいということです。具体的には、まず分野横断活動の推進が大事な視点です。大きなところではJSASSが目指す航空と宇宙の融合です。幸い水素飛行機や空飛ぶクルマという魅力あるテーマが生まれ、航空と宇宙が一丸となったよい連携が始まりました。もう一つ大事なのは学術と産業界の連携強化です。宇宙ビジネス共創委員会では、ベンチャーや民間団体など新たな仲間との共創関係の構築を推進しています。宇宙輸送では、民間活動におけるアカデミアの貢献というテーマで年会講演会のセッションを特別に企画し、会員の皆さまと議論を深めました。さらに、JSASSでは他の学会・協会との連携を推進しています。昨年度はJRS(日本ロケット協会)と連携協定を結び、輸送系の課題について検討する合同のタスクフォースを結成したところです。

仲間を増やす別次元の取り組みとして、ジュニア会員制度を近々立ち上げます。当面16歳から20歳の若者をターゲットとしてジュニア会員とJSASSとのWin-Winの関係を構築する取り組みです。我々が若い世代にできることという視点だけでなく、若い人たちから我々が学ぶことも多いのではないかと期待しています。一方、昨年度航空宇宙技術遺産制度を創設し、定時社員総会後の会員の集いにおいて技術遺産第一号の認定(6件)を行いました。これは、第一には我が国の技術水準の高さを世に示すことにありますが、それだけではもったいない。航空宇宙技術を一層発展させる新たな技術開発にもつながるような制度に育てていきたいと考えています。

JSASSでは挑戦する基盤として航空宇宙ビジョンを策定し、その改訂を進めています。これに命を吹き込むために具体的な検討を深めていくことが重要です。その意味で、昨年末に日本学術会議の求めに応じて未来の学術振興構想として3テーマ(航空・宇宙・宇宙輸送)を提案できたことは大きいと言えます。年会講演会でも特別セッションとしてパネルを企画し、会員の皆さまとの議論を深めました。宇宙輸送を特出しにしたのは如何にもJSASSらしいです。というのも今後の宇宙輸送は航空との連携が不可欠で、まさに航空と宇宙の融合のシンボルと言えます。さらに、今回の公募の趣旨として異分野との連携が強く求められており、周辺の学会・協会はもとより、人文科学系に属する学術分野とも連携関係を新たに構築することができました。これはJSASSが分野横断連携・開拓部門を通して推進している異分野との交流という基本精神ともよく合致したよい取り組みだったと言えます。

昨年度は国際宇宙探査の進展や月を目指す宇宙飛行士の選抜など明るい話題があった一方、肝心な足元の活動ではイプシロンとH3の失敗やMSJの開発中止など航空宇宙業界の基盤を揺るがすような出来事がありました。成功と失敗の狭間の真剣勝負でこそ科学と技術は進歩する。困難に屈することなく挑戦し続けることが我々航空宇宙業界の真骨頂と言えます。HAKUTO-Rもさらなる前進に向け早くも動き始めました。逆風が飛躍の原動力です。今後とも会員の皆さまの挑戦を後押しし、科学と技術の発展を牽引するJSASSを目指していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

(2033/2028)